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●1998年11月08日/日 日曜日のプールはガラガラで、行き交うおばさんのブレストの元気な足が人の腹を蹴るような事にはならない。しかも水は透き通るようにキレイ。しかもしかも閑散としたプールサイドにはお洒落なジャグジー。外の植木の間からの陽光がジャグジーの泡に反射して、とってもラグジュアリーな午後なのかしらね、これ。 適温保つ豊かな湯に半身を浸ける僕の目線から駐車場に止めた緑のVITAが見える。あれ私のです。この瞬間を贅沢と言わないで何を贅沢というのかのお時間。これでリラックス出来ない精神があるとすればもうそれは救いようのないお人。清潔なプールを一人じめして、陽の当たるジャグジーに何10分も身を任せて外のVITAに想いをはせる。きっと今の僕は幸福なんだろうなー、と競泳用三角パンツが似合わないから今だにバミューダ形遊泳パンツを履く鏡の中の僕に問いかけるも、ちょっと違う様子。けだるい日曜日のきっとブリリアントな午後に、いくらジャグジーの泡が僕の全身を心地よくたたいても、贅沢とか解き放たれた精神とはやはりちょっと遠い私の心中。うーん、こんなんでは贅沢になれないのか、もはや幸福にはなれないのかしら。 神や仏にとりつかれたようにいくら走っても、1センチでも先の水を掴むようにアグレッシブに泳いでも、心の臓の底に溜まったストレスなんかちっとも発散しないようだし、何も人生見えてこない様な気がしてならない。じゃあ、一体人生のほとばしる様な充実感や幸福感を得るためにはどうすればいいの? 後は宗教や薬しかないの? やっぱマサヤして最後はバイアグラか? とスポーツクラブのジャグジーに浸かりながら窓の外のVITAに問うても鱗の答えをもらえる訳はないか。 いつものようにサウナで仕上げてスホーツクラブを後にすると外は結構風が出ていて寒い。ここの所、急に冬になってしまった関東平野気候の中で、これから寒くなるにつれてVITAがブリのようにどんどん美味しくなるようで、数ヶ月ぶりにそろそろVITA夜行を復活させようかなどと企む自分の中から、ジャグジーでふやけたトロロのようなドロい液体が体から抜けていく快感を久々に覚えた。よし、少し飛ばそう。行ってしまえ。 駅前の商店街を抜けてちょっとスピードを上げて風呂屋の前のカーブを少し鋭角にハンドルを切る。久々の横Gがグッとかかってヒヨワなコンチがズルっとよれる。この瞬間。この瞬間に久々の幸福感はあった。本当に久しぶりだった。やっぱVITAは良い。 PS. 近所に赤外線防犯装置に囲まれたお屋敷がある。何せドーベルマンもいるし、きっと電気が流れるているだろう碍子付き鉄線も一部にある。もう要塞のようなお金持ちの家の前に真っ赤なメルセデスAクラスがやって来た。横幅10mはあろうかの大シャッターの向こう側にはホテルの地下のような広大な駐車場がある。たぶん。真っ赤なセーターを着たお嬢様が、中年の家政婦さんに付き添われて真っ赤なAクラスをゆっくりバックさせている夕暮れ時。駐車場は半地下になっていて入口の地上高が低い。Aクラスのルーフとコンクリの天井の隙間が2cm程に見える。もうギリギリだ。あともう少しAクラスの車高が高ければこのお屋敷の駐車場にはAクラスは確実に入庫できない。お嬢様は購入以前にその辺の事をご自分みずからメジャー片手に調べたのだろうか。何だか軽ーく、衝動買いのような気もする。表をVITAで通り過ぎた時、Aクラスの中のお嬢様と目が合った。でも、お父様はあなたのためなら駐車場の天井の高さなどいとも簡単に作り替えてしまうだろうと思う。 | ||
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●1998年11月15日/日 事務所にG3を入れたのでPowerMACが一台あまった。だからあまったPM7100を持ち帰って土日はほとんど自宅でSOHOっている。朝起きてほふく前進、そのままお膳の上のMACへ直行。電源を入れて仕事を始める。軽い雑誌広告を3本こなして、業界紙6Pを組み立てて、とあるサプライメーカーのホームページにとりかかるともう夜になっている。その間、電話1回。外出1回。 そばに置いてあったPHSで寝ながら長電話。久しぶりの遠方の友人はいやになる程に元気だった。確実に僕よりは長生きするだろうと思う年輩筋肉男。裏山に沈んだ太陽が作り出した一瞬の夕焼けのすばらしさを僕に伝えるのに15分はかかったみたい。その電話は僕からかけている。数日前に彼の山に陽が落ちて、その瞬間から約8分間、彼の人生で最高の夕焼けが全天空を染めたのだそうだ。感動を伝えるのがこんな僕より下手だけど、その一直線の迫力にはいつも完璧に負ける。東京でも夕焼け見えたか? と聞くから、見てない、と答える。何をしていた? 仕事している。パソコンか? そうだ。 体に気をつけてるか? 週に一度のスポーツクラブ。週に2回にできるか? 現状は難しいけど、と答えた。今度は僕からの質問。アストラは元気? 今6万4000キロ、絶好調。おまえのVITAは? 今5000キロちょっと。彼のアストラは2年前の初秋に、僕のVITAは昨年の初秋に購入した。それにしても距離に差がついてしまった。この差がそのまま両者の人生の差になりそうである。 娘が遊びに出ていってしまったので、妻と二人でいつものサンドイッチ屋にVITAで繰り出す。日曜日の常連がやっぱり来ている。赤毛の飛んでる若女。本好き熟年夫婦。短い髪を真っ赤に染めていつもタバコをくわえている若い女。メンソールの少ない煙を揺らしてヘッドホーンの音楽に集中している。目線はたえず前方1.5m固定。小さく中指でビートを刻む。小柄で痩せていてジーンズの裾はいつも10センチは折りかえる。僕も妻も彼女の隠れファンだ。目の前には、子育てをとうに終えた熟年夫婦がトレーを持って入って来た。奥さんのバックの中は小説でいつも一杯の様子。旦那はいつも文庫で奥さんはいつもハードカバーだ。旦那は必要最小限の会話で必要最大限のコーヒーを音を立てて何杯もすする。奥さんのトレーには必ずフライドポテトの大袋が乗っている。この差がそのまま両者の体重の差になって見える。 サンドイッチ屋を出ると、駐車したはずの場所にVITAの姿がない。日曜日の阿佐ヶ谷でレッカー移動を目撃した記憶はないし。でも確かにVITAはそこにいない。今年中に1回。駐車違反をあと1回すると免停である。内心少し焦っている。中杉通りを阿佐ヶ谷駅を中心に南北に500mは探してしまった。結局まったく止めた覚えがないような場所にVITAはいた。記憶の場所より南に300mは離れていた。こんな事は初めてである。自覚症状のない疲労の中に僕達はいるのか、もしくは、そろそろ早すぎる黄昏が近づいているのか、確かこんな事を妻と話しながらVITAのエンジンをかけた。夜は仕事をやめて安ワインと淀川長治さんの最期の解説を聞きました。 | ||
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●1998年11月21日/土 夜中の3時過ぎに駐車場にいるVITAを2階の窓から見下ろすと、その先2m程に黒い人影が小さく動いている。一瞬ドキッとしながら目をこらすと、タバコの赤い火が彼か彼女のゆっくりとした呼吸に合わせて口元で大きくなったり小さくなったりしていてとても綺麗。なんてノンキな事言っていて、間違ってもVITAのルーフなんかでタバコを消されてはたまらないので僕も夜中の3時に家の前の路上に出て行く。 獅子座流星群は夜見たニュースによると、雨が降るように落ちて来るという話だった。豊島園の夏の花火のように彩る天空を期待していた私がバカでした。何なんでしょうかあれは、2時間近く冷え込む夜中に首がおかしくなる程上空を見上げて確認出来た数は、僕が6つで妻が7つだった。 自宅前の坂上の東側は畑になっているから見晴らしが良い。目をこらして遠くの街灯の中を見ると、10数メートル間隔で建つ各電柱の側には黒い人影がポツリポツリ立っている。まるで昔の新宿裏通りの娼婦のようにじっと誰かを待っているようで、ちょっと気持ちが悪い真夜中の光景だ。SMXを止めて車内からじっと星がまばたく天空を直視しているヤツもいる。あのフラットのラブシートでも人影は一つ。そういえば、ほとんどの人が一人だ。 普段、淡々と時間が流れる何も起こらない住宅街、僕の自宅の近所で、流星にこれほどまでに興味を持つロマンティックな人達がこんなにいたなんてちっとも知らなかった。深緑のBMWを所有してるも毎晩帰宅が深夜におよんで休日は疲れて寝てばかりいる会社役員Aさん、かなり古い年式のグレーのボルボに乗り英語とフランス語が堪能だと噂で聞くもその活躍の場を一度も見た事のない職業不明のBさん、白い愛車カローラを大切にするも心はいつも荒野をいく戦車、6畳間位の穴を掘るのは朝飯前だと自慢する自衛隊勤務のCさん。マニラ勤務の息子夫婦との暖かい生活に入るべくブルーバードを売ってフィリピン移住を決意して、何があったか半年で舞い戻った礼儀ただしい四軒先のDお爺ちゃん。みんな家族がいるのに何故か一人で今にも明けて来そうな天空を見上げていた先日水曜日未明。 人の孤独とか逃避とか夢とかフラストレーションとかから連想する悲哀らしき実体無きもの漂う杉並住宅街の片隅で、未明の天空が映り込むVITAのボンネットを見ていると不思議に元気になってきて、成層圏突入の長い残光を保つ流星の出現による予期せぬ人の連帯感が嬉しくて、思わず、オー、なんてみんなで感嘆の声をたててしまったのでした。水曜日、朝になったらすべてが日常でしたが、でも何かね、この週末、今日土曜日までにも我の心の隅に引きずる流星群を再び見たくて明日からの2連休、VITAで山になどと半分冗談で独り言、麦焼酎「いいちご」を煽りながらこれを書いている僕。その横のソファーで寝てしまった娘と妻のいびき。外では下のアパートの女の子を送りに寄ったホンダCRVから漏れるマライヤ・キャリーのあの高音が聞こえます。
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●1998年11月27日/金
大事にしている物や事を真っ先に捨てて、VITAを捨てて残る余生を第三諸国で天寿全うするのも良いアイディアだと密かに想っていたけれど、南米近辺のスターレットやシビックの事情を聞いて何だか今更のエスケープも大人げないかとしきりに巨根生える現実感に襲われたりする。 | ||
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●1998年12月04日/金 | ||
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●1998年12月05日/土 | ||
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●1998年12月14日/月 | ||
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●1998年12月21日/月 | ||
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●1998年12月24日/木 | ||
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●1998年12月31日/木 | ||
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